さよならが言えなくなるその前に

ひとりぼっちのキリン



優香は大きなため息をついて



エレベーターの閉まるボタンを押した。



…やらかした。



初歩的なミス。




お客さんとのアポ。



スッカリ取り違えなんて



こんな間違いするなんて



しかも、よりによって




相手は




そういうミスにすっごい



うるさい小敷商会…



謝り倒して




何とか解放された夜



(や、悪いのは完璧に自分なんだけど)



もう何やってんだ



自分。



年下の子に迫られて



フワフワしてるから



こんなありえないミスするんだよ。



先輩にも後輩にも迷惑かけて…



みんなに迷惑かけちゃったことが



1番…



あーほんとに落ち込む。



自己嫌悪が止まらない優香。



ヒールがもう痛くて



重くなりすぎた足と




気持ち引きずって



会社の自動ドアをぬけて



外の空気に触れた優香の耳に



ドッドッドッ。



って、大きな排気音。



前の大通りにとまっている


ブラックの流線型の車



アウディR8。



その横のガードレールに



翔輝。




だから、もう。



わたし。




いっぱいいっぱいで



弱ってるのに



「お疲れ。」なんて



優しい声で



迎えになんて来ないでよ。



くちびる噛みしめないと



何なのかはわからない



気持ちが溢れそうなんですけど。







無言で車走らせる翔輝。



疲れた頭で考えるの



このひと



やっぱり何でこんなに



わたしに固執するんだろう。




こんだけイケメンで




王様?で




すっごいモテるでしょ。



引くてあまたでしょ?



サッパリわかんないよ。




理由なんて考えたことない




なんて、言われたけど…




何か…思い違い?勘違い?




してない?





あれ。この道




車外を流れるのは明らかに 



普段とは違う道




「どこ、行くの?」




「んー?」




って、よくわかんない翔輝の返事。









え。




車がとまった目前は




オレンジやブルーのライトで輝く夜景。




連れて行かれたのは




埠頭沿いに立つ工場が見渡せる港。




無数のパイプやタンク




林立する機械たち。



眩しいくらい光が溢れていて



1つの別の世界の王国みたいで



幻想的で




だけど、機械のブリキ感がどこか



寂しくて




目の前に広がる世界に




言葉を忘れた。




翔輝も、無言で




しばらく2人で見とれたよね。







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