さよならが言えなくなるその前に

現実チョップ






苦笑いの優香に


「えー。結婚してたわけ!



この前話してた人でしょ?」



えりがモスコミュールをテーブルに



どんっ。



置いて怒鳴った。



「マジそういう男。いるよね



指輪も外して、独身のふりして




完全わざとなヤツ。」



秋保もパスタを口に運んで言う。



「で、その後は大丈夫なの?



何か、不倫男だったくせに、



まだ連絡してくるって

 

言ってたじゃん。



取引先なら、仕事でも



会ったりするんじゃないの、



きっぱり切れた?」



事情を知っている美香ちゃんが



先を促すように言う。



仕事帰りの今日は



久々に、大学の時からの仲良しメンバーで



集まって食事会兼飲み会。



何でも言い合える気の合う仲間で、



数か月に一度はこうして集まって、



たわいのない話で盛り上がっている。



みんな同い年で、



四人のうち、秋保だけは結婚している。



正直、



独身と思い込まされていたとしても、



気づけなかった私。



結婚している秋保は、



どう思うかなって。



ちょっと不快に思うかな。って



気になってたけど。



一番、怒ってくれてる。




「…うん。



実は一回。家まで来たんだよね。



玄関先で騒がれて…」



「はああ?!」



三人が口をそろえて、ヒートアップする。



「まじなんなの、その男!



あつかましいんだよ!」



「どういう神経してんだっつーの。



騙してたくせに。



どんなツラして来るんだって。



何、別れたくないとか



言ってきたわけ?」



「まさか、優香。



家には入れてないよね?」



一段と声が大きくなる三人。



「だって。騒がれて。



大きな声で、不倫とか言うから」



優香が言い訳っぽく言うけど



「え。上げたの?家に?


大丈夫だったの!」



「絶対ダメじゃん!」



「何やってんの、優香」



「もー優香、そういうとこあるよねー。



ワキが、甘いっていうか



スキがあるっていうか…」



三人の目こわいし。




耳が痛いです。



確かに



しっかり者のえりなら



ちゃんと、既婚だって気づきそう




秋保なら、そんなずるさ



見逃さない。



ハイスペック美香ちゃんなら、そもそも



そんな男にひっかからない。



ううう。



会社ではどちらかというと



頼られて、しっかりもので



通ってる優香も



このメンバーの中では



何でか



こんなポジション。



みんなが優香の上をいくしっかりもの



なのか。



優香が、会社で無理してるのか…



そんな3人に、安心させようと



優香は急いで言う。



「や、でも。


結果大丈夫だったの!


助けてくれて」



「は?誰が?」



えりがすぐ突っ込んでくる。



「え?誰も?」


やば。


口が滑った。



「いやいや。


今はっきり言ったやん」



「怪しいぞ。この女」


秋保がふざけて言う。



「ちょっと、私も聞いてないんですけど」



美香ちゃんも迫ってくる。



「や、別に。



誰っていうか。



何か、偶然?



助けてくれたひとがいて



いや。ほんと、



何も関係のないひとなの」




優香のしどろもどろな言い訳に




「いや。


めちゃくちゃ怪しいんですけど」



「優香の家でしょ?



関係ないひとが、



どうやって助けてくれるのよ」



「ニューフェイスの登場♫


優香。もう白状しなさい」



「おら。吐け」


元ヤン秋保の凄み顔。



わー。しまった。



言えないよ。



言えるわけないじゃん。



年下の



たぶん



ヤバイオトコ



…なんてーっ



絶対言えないし。



「いや、ほんとに。


付き合ってるとかじゃないんだよ?」



「はいはい。無いけど?


大人な関係ね?



やるじゃん。優香。



不倫で落ち込んでるかと



思ったのに」



秋保がそんなこと言うから。



「違う違う。



大人な関係とかでもないの」



慌てて否定する優香に



「そうなの?


無いけど?」



「何か。


その…好きって言われて?」



白状させられる優香。



「えー。いいじゃん。」



興奮するえり。



「いいじゃん。


どんな人。何してる人?



こっちはもう、そんな恋バナ無いんだから。


詳しく教えてよ。



トキメキちょうだい。」



秋保がはしゃぐ。



「いや、ほんとに


どうかなるとかないよ。



年下だし」



「いくつ?」


「22」


「あー。


ちょっと下だね。



歳でいったらそんな変わんないんだけどねー


まだ遊びたい年頃かー。」


みんなが同じリアクション。



「社会人?まさか学生?



どこで出会ったの?」



「うん。えっと。


何してるかは


…知らない」



嘘ついちゃった。


でも言えないよ。


言ったら多分


もっと心配かけちゃうよね。


どうやって出会ったかなんて



余計言えない。



「うん。


でもほんとその人と



何かなるとか、


…無いから」



自分で言ってて



自分に再確認。



そうだよ。何にもならないよ?




でしょ?





何とか、執拗な友達探偵をかわして、



秋保たちと別れて




美香ちゃんと2人の帰り道。



「ねぇ。優香」



「うん?」




「さっきの話だけど…



大丈夫よね?



うちらもう少ししたら…



四捨五入したら



アラサーになるよ。」



ちょっと冗談めかして美香ちゃんが言う。




「先に繋がらないオトコに




ハマっちゃだめだよ」




心配症な美香ちゃん。



ありがと。



「…うん。



大丈夫だよ」



「ちゃんと、わかってるから」



優香は静かに笑って



そう言った。



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