エリート御曹司が花嫁にご指名です
「そうか。汐里ももうすぐ二十八だな。お前ももう嫁に行ってもいい年だな」

 自分に矛先が回ってしまい、心の中でため息をつく。

「そう言われても、お付き合いしている人もいないのに、結婚だなんてまだまだよ」
「汐里は容姿端麗なのに、どうしていないのかしら……」

 お母さんはいつもそこに行き着く。

 そして私の答えも適当に、「どうしてだろうね?」で話を終わらせるのだ。



 おにぎりと、夕食のおかずを詰めたタッパーと、キンキンに冷えたアイスコーヒーが入ったボトルを保冷バッグに入れて、病院へ足を運ぶ。

 時刻は二十二時を回ったところだ。

 夏の夜はあちこちで虫の音が聞こえ、どこかで騒いでいる若者の声もしていた。

 夜間救急外来の出入口からカードキーで中に入って、灯りが落とされた廊下を進む。数歩歩いた先の警備員室から、いつも現れる警備員が出てこない。

 見回りをしているのね。

 二階にある当直室へ、エレベーターではなく階段を使って上がる。驚かそうと思って、当直室のドアをノックせずに大きく開いた。

「壮兄!」

 ニッコリ笑顔で兄を呼んだ次の瞬間、私は目を見開き、言葉を失う。

 会社の執務室で別れた桜宮専務がソファに座り、壮兄に左手のひらを包帯で巻かれていたのだ。

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