エリート御曹司が花嫁にご指名です
「専務っ! いったい、どうしたんですか!?」

 私の慌てた様子に、桜宮専務は静かな口調で「落ち着け」と諭す。

 トレーの上に血のついた脱脂綿が置かれているこの状況なのに、いつものように桜宮専務は冷静沈着だ。

「お、落ち着いています」

 上ずってしまうところが、そうでないことを物語ってしまっているが。

 私は夜食の入ったバッグをテーブルの上に置いて、ふたりに近づく。

「しおりん、夜食を持ってきてくれたんだ。ありがとう」

 壮兄は私の驚きをまったく気にせずに、ニコッと笑みを浮かべる。

 私はトレーの上をもう一度見てから、視線を桜宮専務に戻す。

「ケガをしているじゃないですか。それもこんなに血だらけで」

 よく見ればチャコールグレーのスーツにも血痕がある。大判のハンカチで押さえていたのだろう。どす黒い血がびっしり付着していた。

「たいしたことはない。壮二、そうだろう?」

 包帯を巻き終えた壮兄は、トレーのものを蓋のついた大きなペール缶に捨てている。

「ああ。出血の割には縫うほどのこともなかったから。しおりん、そんな心配そうな顔をしなくてもいいよ」
「退勤後になにがあったんですか?」

 私は突っ立ったまま、桜宮専務の包帯の巻かれた左手から目を逸らせずに尋ねる。

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