エリート御曹司が花嫁にご指名です
「大丈夫? 顔色が悪いわよ? 私の風邪がうつったのかしら」
「……おはようございます」

 しっかり挨拶をしているつもりだったのに、三和子さんは眉根を寄せてから、私の額へと手が伸びた。

「三和子さんっ」
「熱はないようだけど、大丈夫?」

 手を離した三和子さんは、じっと見つめてくる。

「はい。平気です。寝不足なのかもしれません。三和子さんはもういいんですか?」

 空元気を出して笑顔を向けると、三和子さんは安堵した様子。

「さすがに金土日月、四日間休めばね。じゃあ、社長室に行ってくるわね」

 三和子さんは指を一本ずつ折り曲げていって、肩をすくめてみせてから、秘書室を出ていった。


幸田(こうだ)さん、この書類を羽田の訓練部へ持っていってもらえますか?」
 
 昨夜、優成さんと話していたヴィラの件の調査を各所に依頼していると、南場秘書室長が一年目の幸田さんに声をかけるのが聞こえた。
 
 訓練部……?
 
 書類を届けるなどの外出は新人の仕事だけれど、訓練部と聞いて、私は椅子から立ち上がった。

「私が行ってもいいでしょうか? ちょっと気分転換をしたくて」

 昼食に食べたハンバーグが胃にもたれていて、少し動きたかった。


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