エリート御曹司が花嫁にご指名です
「いろいろな男と付き合うのは勝手だが、今度は助けが入るとは限らない。気をつけることだな」
「し、失礼なっ! 男のほうが寄ってくるのよ! せっかく来たのにお説教されるとは思わなかったわ! 顔はいいけど、性格は最低な男ねっ! 美人秘書をはべらせて、そっちこそ、やり手ですことっ!」

 大塚さまは心底憤慨した様子で、肩をプルプル震わせて専務室を乱暴に出ていった。

「……彼女を、ここへ通すべきではなかったのではないでしょうか?」

 結局は彼女に悪態をつかれ、踏んだり蹴ったりではないかと思う。

 ため息を漏らす私に、桜宮専務は気分を害した様子もなく、フッと笑みを漏らす。

 桜宮専務は助けた大塚さまのことがわかっていたのかもしれない。案の定、彼はそれを示唆する言葉を口にした。

「これでよかったんだ。何度も来られては困るからな」

 桜宮専務は執務デスクに戻るが、私はあんなふうに罵る女性を初めて見たショックで佇んでいた。

「ありがとう。汐里。さすが機転が利く」
「い、いいえ」

 普段向けられたことのない、先ほどの甘い笑みを思い出してしまった。まともに桜宮専務を見られずに、視線を自分の手元に落とす。

 あ……チョコレート……。

「これは、いかがいたしましょう?」

 彼女が言った通り、有名なショコラトリーのショッパーバッグで、私も滅多に買わない、ご褒美に買う高級チョコレートだ。

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