俺と、甘いキスを。
すると、峰岸真里奈は顔を上げると、キッと睨んだ。
「右京さんは奥さんの、椿マリエさんの気持ちを騙しています。彼女は海外での生活は派手のようですが、右京さんの奥さんなんだから、右京さんを一番に思っているはずです。私はそれがわかっているから、愛してくれるなら愛人でもいいと思ったんです。川畑さんなんて、何を考えているかわからない女が一番怖いんですっ」
バンッ。
頭より先に、反射的に机を叩く俺がいた。
「上辺だけ見てきた俺たちの夫婦生活は聞かなかったことにしても、俺の目の前で花の悪口は遠慮してもらいたい」
余程、俺の顔が怖かったのだろうか。峰岸は体をビクビクと震わせて「ごめんなさい」と涙目で謝った。
「でも、川畑さんが右京さんにみんなの悪口を言って取り入ろうとしたのは本当よ。私、その場を見た人を知ってるんだからっ」
と、それでも食い下がる彼女に、俺は「へぇ」と冷ややかに見つめた。
「じゃあ、俺もその人に確かめてみるから名前を教えてくださいよ」
「それは……」
口篭る峰岸真里奈を睨む。
「大丈夫ですよ。あなたから聞いたと言いませんから。そうだ、もし教えてくれたら……」
と、彼女の「アメ」となる話を持ち込む。
この際、椿マリエのことについては忘れていてもらおうと思った。
俺は峰岸真里奈に「アメ」を与え、一言つけ加えた。
「花の名誉のために言っておく。俺は今まで、彼女から相手が傷つくような悪口は聞いたことがない」
「峰岸さんからの花の悪口は山ほど聞きましたけどね」という言葉は、口から出そうになって飲み込んだ。