俺と、甘いキスを。
「マリエ、この土曜日に俺たちのこれからをどうするかを決める。キャンセルは無しだ。キャンセルをすればスポンサーの話はなくなり、離婚届だけがマリエのところに届くことになる。忘れるなよ」
この忠告がマリエにどれだけの重要性を与えられたか分からないが、花のためにも絶対に話をしようと決めていた。
マリエとの通話の後、ほっと息をついたときに「あの」と声が聞こえた。
障子の間から、花がひょこっと顔を出している。
「花、いたのか」
少し困り顔の彼女の顔に話しかけた。
「お、おはようございます。電話中だったみたいだから、一度出直したんだけど……」
と、その顔から彼女は隠し事が下手なことが何となく理解した。
「もしかして、電話の話を聞いたか」
「……ごめんなさい。少しだけ」
と、申し訳なさそうに目を泳がせた。
「その、妊娠がどうとか……よく聞こえなかったけど」
ああ、そこを聞いたのか。もう少し隠しておきたかったことに、自分も迂闊だったと反省する。
花は朝食の支度のため、すぐに部屋から出ていったが、すっかり動揺していることは見てとれた。
出勤前のぎこちない態度の花に声をかける。
「朝の話のことは、ちゃんと説明する。少しだけ待ってくれないか」
「……電話の相手は、マリエさん……ですよね?」
目を逸らして聞いてきたことに、俺は花を見て「ああ」と答えた。
花はポツリと、
「それは右京さんの、夫婦の会話です。私の知るところじゃないと思いますので……」
と、あくまでマリエを表に立たせ、自分は一歩引いた位置に控える言い方をする。
俺はふんわりとした花の頭を撫でた。
「心配するな。俺はお前を守ると決めている」