俺と、甘いキスを。

ワークチェアに座る私の前に置かれた、赤白のボーダーのマグカップが何だか懐かしい。覚えていてくれたのか、ミルクティーのあたたかな蒸気が上がっていた。
そして、青白のボーダーのマグカップを持つ右京蒼士が、私と向き合うように座る。

「花、何かあったのか」
彼は私の様子を伺っているようだ。

何も言わないのではなく、何から言えばいいのかわからないのだ。
「美月さんと……右京さんのお姉さんと、お話したの」
「姉貴と?」
彼はクッと眉間に皺を寄せる。
その表情に、ハッと慌てて息を飲んだ。

あのとき、彼が泣いたことが、私に知られたくなかったことなら。

右京蒼士の行動ばかりを気にして、彼の気持ちを考えていなかったことに、また何から言うべきなのか迷ってしまう。
すっかり黙ってしまった私に、今度は彼が静かに口を開いた。

「花、俺から大事な話がある」

私は顔を上げて、その切れ長の目を見つめた。キリッとした目元が柔らかくなる。
「兄貴と仕事の話をしてから、じいさんたちのいる料亭に行ったんだ。そこで花の両親と約束してきた」
「……約束?」
私はやっと、聞き返すために口を開いた。


「花の家の広い庭、あそこに家を立てようと思う。花のお父さんは暁さんが結婚したら、と考えていたようだが、暁さん本人はその意思はないようだ。だから、俺があそこに家を建てて花と住む、と約束してきた」
「あの庭に……家を」
「ああ」
右京蒼士が微笑む。
「同じ敷地に家を建てれば花が両親の様子を見に行くことも、食事を一緒にすることもできる。離れて暮らして花が心配ばかりすることは、メンタル的にも良くないと思うから」
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