俺と、甘いキスを。
隣の研究室から持ってきた椅子に、二人分の衣類が重なっている。
サイドテーブルのランプだけの頼りない灯りが、ベッドを照らす。
布団の衣擦れ、触れ合う素肌。
少し長めの黒髪が、サラッと揺れる。
長い、長い。触れるだけのキス。
それだけなのに、甘くて切なくて、息苦しくなる。
「花。電話のときみたいに、名前で呼んで。お前も、もうすぐ右京花になるんだから」
「右京……花」
「川畑花」という、小道に咲く名もない小さな花のような名前から、「右京花」という、どこか高級さのあるブランドの花に進化したような名前を頭で想像した私は苦笑してしまう。これは彼には内緒だ。
「花、名前で呼んで」
再度唇を寄せておねだりする彼に、唇を開いた。
「愛してる。蒼士」
「愛してる。花」
とろけるように重なる唇、ずっと絡み合っていたい舌に酔いしれる。
「花の唇は甘くて狂いそう。ずっとキスしたい」
バレンタインのあの日、あなたが流した涙が、このキスで報われるなら。
その涙は私の心の中の記憶として残そうと決めた。
あなたが好きな、このキスで。
今度は私があなたを幸せにしよう。
十年と言わず、一生と言わず。
ずっと。ずっと。
おわり。


