俺と、甘いキスを。
頭の中で「プチッ」と音がした。
きっと、もっと私が大人であれば簡単に受け流していくだろう。しかし頭より先に体が動いてしまった。
自分のことをあれこれ言われても平気だったのに、峰岸真里奈が右京蒼士にちょっと触れただけのことが、私の中を黒く染めあげた。
建物中に聞こえるくらい、ヒールの音を鳴り響かせて階段を上がる。さすがに二階の二人も気づいたようで、私に振り返る。
「峰岸さん。受付の内線が鳴っていたみたいだけど、大丈夫ですか?」
ありもしない嘘を言って、彼女の気を逸らした。ずっとここで聞いていたことを知らない彼女は悪びれもせず、驚いて「え、やだ。ホントですか?」と言って、慌てて持ち場へ戻っていく。
階段を上がりきって右京蒼士と目を合わせたが、私はぷいっと顔を逸らして三階への階段を上がろうとした。
──何が「男遊びしてる」よっ。何が「ミステリアス」よっ。
人のデタラメなことを言った峰岸真里奈も、人をからかうようなことを言う右京蒼士も気に入らない。
「待て」
後ろから呼び止められ、私は立ち止まって不機嫌に「なに」と、返事をしてしまう。
彼はフッと鼻で笑った。
「いいね、お前のタメ口。そそる」
「そそる」なんて初めて言われて、ビックリして振り返った。
「なっ…!何言ってんの?あなた、バカなの?」
「そうだな。俺、バカかもしれない」
「……!」
それは、本当に一瞬で。
避けられず、そっと持ち上げられた顎。
同時に近づいた、整った顔。
唇に重なった、唇。
どくんっ。
「んっ」
夢なのか現実なのか、わからない次元に飛び込んだ気がした。
ゆっくりと、唇が離れる。