俺と、甘いキスを。
右京研究室の仕事を終えて事務所に戻ったのは、終業時刻の三十分前だった。
「花さん、お疲れ様です」
と、ちなみが書類を書いているペンを止めて私を見た。私も「お疲れ様です」と返事をすると、彼女は小さなメモを渡してきた。
『峰岸さんに気をつけて』
予想していなかったことではない。峰岸真里奈が何を企んでいるのか知らないが、あまり彼女と関わらないようにしようと思った。
彼女には申し訳ないが、今日は右京蒼士の素顔を少し知った気がする。研究に夢中になった彼の姿は、本当に物作りが好きな人なんだと納得した。
きっと子供の頃は、形だけのプラモデルを作るだけでは満足しなかったに違いない。
…キスのことは、右京蒼士の意図がわからないだけに、私にとっては苦いものになりつつあるのだが。
とにかく、向かいの席ですまし顔で仕事をするちなみには、心配かけないようにしようと思った。