俺と、甘いキスを。
それぞれミルクティーとコーヒーを淹れた、赤のボーダーと青のボーダーのマグカップが置かれたデスク。
ミルクティーの優しい香りがするのに、私はムッと頬を膨らませている。
「たくさん食べたいなら社食に行けばいいじゃないですか。定食なんて安くてボリュームがあるってみんな言ってますよ。私は大きなお弁当箱なんて持っていません」
と、反論してミルクティーに口をつけた。
右京蒼士は視線を私に向けた。
「その「みんな」と言う連中が、今、お前のことを何て言ってるか、知っているか?」
突然言われて、正直自分も朝から周りの様子が変だとわかっているだけに、聞き流せることではなかった。
──知りたい。けど、知るのが怖い。
私の気持ちとは関係なく、右京蒼士の口が開いた。
「川畑花は右京蒼士に取り入ろうと、自分のことを棚に上げて女性社員の悪口を右京蒼士に聞かせている」
「…え?」
驚きのあまり、私は口をポカンと開けて彼を見つめる。
右京蒼士は黒いワークチェアに座り足を組み、余裕な態度でコーヒーを飲む。
「お前だって感情を持つ人間だ。人の態度や言い方で気持ちの浮き沈みがあって当然だ。だが…」
言葉を一度切った彼と、視線が絡む。
私は徐々に速くなる鼓動に手を置いた。
「俺は人を陥れる様な悪口を、お前から聞いたことがない」
どくんっ。
心臓が大きく脈打つと同時に、さっきまで沈んでいた空気がサァッと澄んだものに変わった気がした。呼吸も楽になっていく。
「これが俺の思った現実なんだから、噂は信じていない」
ただ本人は、自分の気持ちをそのまま言葉にしただけだろう。それが私の中にこんなに浸透していくとは思っていなかった。