俺と、甘いキスを。


「明日の十三時から柏原研究室の打ち合わせをしたいんだけど、ミーティングルームの空いている部屋はあるかしら?」

不意に横から声をかけられて振り向くと、研究所一番の美人の原田京華が白衣姿で立っていた。肩にかかった黒髪ストレートが艶やかに輝いている。
「川畑さん?」
と呼ばれ、髪に見とれていた私はハッと我に返る。
慌ててミーティングルームの使用状況を確認して、
「えっと、はい。Eの部屋が空いています。十人程度の、ホワイトボードのある部屋です。どうでしょうか」
「ええ、大丈夫よ。それで予約お願いしますね」
「了解です」
と返事をすると、彼女は細い顎の小顔でフッと微笑んで去っていった。
本当に研究者にしておくのが勿体ないくらいの美人だ。後ろ姿の歩き方も、モデルのようにスマートで、踵の高いヒールも似合っていた。

私に持っていないものを全て持っている人だ、と思った。

仕事に区切りがついたとき、デスクの横にバサッと郵便物が雑に置かれた。
気がついて見上げると、冷めた顔をした峰岸真里奈が私を見ろしていた。彼女は何も言わず、「フンッ」と鼻を鳴らして受付へ戻っていく。彼女にすっかり嫌われたようだ。

──峰岸真里奈の恋路の邪魔をするつもりはない。

右京蒼士から聞いた私の噂も、もしかしたら峰岸真里奈が関係しているかもしれない。彼と私が仕事上であれ関わりを持ったということは、今まで彼に世話を焼いていた峰岸真里奈が面白くないことくらいはわかる。
でも、正々堂々と「右京蒼士の愛人希望だ」と公言している彼女が、こんな作り話を流しているとは思いたくなかった。
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