俺と、甘いキスを。

終業時刻になり、帰宅しようと事務所を出る。
ふっ、と顔を上げると、桜の木の向こう側を歩く右京蒼士と原田京華を見かけた。何か話し合っている二人は顔を見合わせて笑う。まるで二人でいるのが当たり前のように自然で、釣り合いの取れたお似合いのカップルだ。
冷たい風がザッと吹き過ぎていく中で、あの二人の空間だけは、あたたかく柔らかな空気が流れているみたいだった。

右京蒼士には人気デザイナーの奥様がいるけれど原田京華が愛人でも、峰岸真里奈が愛人でも、右京蒼士の世界観の中で可能であれば、それも許されてしまいそうだ。

私は二人から視線を逸らすと、いつの間にか止まっていた足を動かして正門へと歩いた。

彼は彼女たちに愛されている。私なんか相手にする必要がないのだ。



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