俺と、甘いキスを。
お昼休みの五分前。デスクの内線電話が鳴り出した。
内線番号45。仕方なく受話器を取る。
「はい。事務所の川ば…」
『昼になったら研究室に来い』
威圧的に話し出す彼に、私はそっと息をついた。
「あの、すみません。今日は持っていないので、社食などで済ませていただくようにお願いします…」
私のブツブツと呟く返事に、右京蒼士は何かを言っていたが、彼の声を聞く気分にもなれず通話を切ってしまった。
ああ。体中が串刺しにされて穴だらけになるくらい、視線の矢の集中攻撃を受けている。
入社して九年。
二度目の社内食堂。
「あの、私は大丈夫ですからっ」
と、断りながらも引きずられるように連れて来られた。
お昼のチャイムと同時に事務所に現れた、右京蒼士は息を切らしながらも笑顔で、
「さあ、行きますよ」
と言い、私の腕を掴んで逃がしてくれなかった。
食券販売機まで並んでいる人たちに、イヤイヤと拒む姿を見られるわけにもいかず、大人しく仕方なく右京蒼士の後ろに並ぶ。
「右京さん、今日は食堂なんですね。一緒に食べませんか?」
「右京さん、こっも空いてますよ」
頭ではわかっていたことだが、彼を見かけた女性たちが間を置かずに声をかけてくる光景を目の当たりにする。「ああ、この人はモテるんだった」と、改めて一緒にいることを後悔してしまう。
「ありがとう。川畑さんも一緒だけどいいかな?」
右京蒼士はそう聞き返すと、彼女たちは私を見て「あー…」と、戸惑いの表情を浮かべる。
結局彼が「僕は川畑さんと食べるから」と愛想良く断り、買った食券を手にトレイを一枚渡してきた。
「唐揚げ定食は食べたことありますか。結構美味しいですよ」
ニッコリと笑う仮面を貼り付けて、私を見る。