俺と、甘いキスを。
──何を考えているのか、さっぱりわからない。
「私は一人で大丈夫です。右京さんはみなさんと一緒に食べてください」
と、彼だけに聞こえるくらいの小声で言う。そのせいで必然的に距離を縮めてしまう。
「今朝、弁当の袋を持っているのを見た。何故、「弁当はない」と言う?」
「!」
驚いて、彼を見上げた。
──まさか、あの場面も見ていたんじゃ…。
右京蒼士は相変わらずの微笑みで、紳士的な話し方をする。
「ほら、川畑さん。唐揚げのお皿を受け取ってください」
空いている席を見つける、その数秒間でも彼にお誘いの声がかかる。そして同じように、
「今日は川畑さんと食べるから」
と、笑顔を残して、私と席に座る。
『きっと川畑さんが、また私たちの悪口を右京さんに吹き込んで、彼を私たちから遠ざけようとしている』
そんなセリフが耳に入った。
──右京蒼士に迷惑がかかる。
私は座った席を立とうと、両手でトレイを持ち上げる。
「いいから、座って食え」
迷う私に、彼の目は「お前の言い分は聞かない」と言いそうな、鋭さを放っていた。
「ここ、いいですか」
食事をしていると、隣の空いた席から声がしたので顔を向けた。
定食のトレイを持つ二人の女性社員、うち一人は峰岸真里奈だ。
「どうぞ」と、返事したのは右京蒼士だ。
向かい合って食べている私たちの、彼の隣には真里奈が、私の隣には連れの女性社員が座る。
しばらく続く、沈黙のテーブル。
ほとんど食べてしまっている向かいの彼に、慌てて口にご飯と唐揚げを詰め込む私。
「右京さん。川畑さんと会話のない食事をして楽しいんですか?右京さんとお話したい女の子はたくさんいるのに」
隣の右京蒼士にぴったりと寄り添い話す真里奈が、チラチラと私に目を向けてくる。見せつけているのだろうが、今の私にはどうでもいいことだった。
それより、彼が今朝の私を、いつ見たのかが気になっていた。