俺と、甘いキスを。
「…っ!」
目の前にグッと出されたパイナップルに驚いたが、その向こうの口角を上げて私を見る右京蒼士に視線を向けた。
「…どういうつもり?」
小声でボソッと呟いてみる。
彼を睨んでいたはずだが、本人は顔を崩すことなく言い返してきた。
「パイナップルかキス、どちらか選べ」
「……」
嫌がらせにも程がある。
──バカバカしい。
そう思って席を立とうとしたが、真里奈たちだけでなく、周りの社員たちも私たちに注目していることに気づく。
そして、もう一度、右京蒼士を見た。
「ほら」
「っ、もうっ」
その嘘くさい笑顔に乗せられて、私は腰を浮かせて前屈みにフォークに刺さったパイナップルを…。
パクリッ。
口で、奪い取った。
「わぁっ」と、周りの声が飛び上がる。口々に何か言っているが、それどころではない。
──私、バカじゃないのっ。何をやってるのよ、もうっ。
自分が何を狂ったようにあんなことをしたのか、この場にいられないとばかりにトレイを持って急いで立ち上がる。トレイを返却して、逃げるように食堂を後にした。
パイナップルの甘さは、右京蒼士の嘘くさい笑顔に似ていた。パイナップルの味に嘘なんてないのに。