俺と、甘いキスを。
お盆を両手に、休憩スペースの横を通って階段を降りようとした。
「…?」
視界の横で、休憩スペースに人影を見た気がして立ち止まる。
ゆっくり振り向くと、
「…あ」
と、その人物に小さな声を上げた。
缶コーヒーを片手にソファに座り、切れ長の瞳で私を見ている右京蒼士がいた。見慣れた白衣姿で立ち上がり、缶をゴミ箱に捨てて近づいてきた。
「お、お疲れ様です」
挨拶をしてみると、彼は私の目の前で立ち止まる。一見無表情な顔だが、それが何故か不機嫌だと悟ってしまう。
「あの、どうか…」
「来週から資料作りを手伝って欲しい。昼もお前の弁当がいい」
そんなことを言うからには、彼はまだ私がサポートができなくなったことを知らないのだろうか。てっきり事務長に呼ばれてこの本館に来たのだと思ったのに。
「右京さん、実は右京さんのサポートを…」
「お前、事務長の言っていたことをちゃんと聞いていたか?」
と、私の声を遮り、眉間にシワを寄せる。
事務長の言っていたことを思い出す。
「ちゃんと聞いていました。「しばらく右京さんのサポートを控えなさい」と言っていました。右京さんの研究室に行けないなら、お手伝いすることも出来ないです」
すると、彼は呆れたように「はぁ」とため息を漏らし、再度私を睨んできた。
「お前、やっぱりちゃんと聞いていない」
そう言って、一歩近寄る彼を見上げた。
私の聞き違いではないはずだ。
「え、だって…」
そう言ったのよ、と言い返そうとした。
「事務長が言ったのは、「しばらく右京くんのサポートに行くのを控えろ」と言ったんだ」
彼の言葉に、私もそのとおりだ、と頷く。
「言い直せば「右京くんの研究室に行くのを控えろ」と言ったんだよ」
「…え?」
右京蒼士のブスッとしな無愛想な顔つきに、私はキョトンと目を丸くする。
彼の口調はだんだん面倒くさそうに荒くなる。
「だから、「右京研究室でサポートするな」と言ったんだ。お前が俺の研究室でサポートしなくても、ミーティングルームでも、空いてる場所でも、その気になれば事務所のお前のデスクでも俺の手伝いをしたっていいんだよ。別に俺はお前のできる場所で、俺の手伝いをしてくれたらそれでいい」