俺と、甘いキスを。
お昼休みは右京蒼士が椿マリエと外出しているので、私は空いているミーティングルームでゆっくりとお弁当を食べた。
ランチバッグの中にはお弁当の他にラップで包んだおにぎり二つと、冷凍枝豆を使った卵焼きのタッパーがある。久しぶりに作った右京蒼士への差し入れだが、今日は出番はなさそうだ。
私はそれらは自分の夕飯にするつもりで、自宅の冷蔵庫の中身を思い出しながら、我が家の夕飯のメニューを考え始めた。
昼休みが終わる頃、事務所に戻る。
「川畑さん」
と、事務所の受付で峰岸真里奈の低い声に止められる。
ムスッとむくれた彼女が「お客様です」と、待ち合いのソファへ視線を向けた。
私も顔を向けると、そこにはパリッと紺色のスーツを着こなした小麦色の肌の男性が立っていた。眉を整えた、短い髪が少し明るめの茶髪の男の人。
初めて見かける人物。
私が首を傾げていると、男性は白い歯を見せて微笑みながら歩いてきた。
「オオトリ電機本社の柴本貴臣といいます。川畑花さんですね?」
と聞かれて、「柴本」という名前に覚えがありながら「そうです」と答えた。
柴本さんは私の頭のてっぺんから足のつま先までじっくりと視線を流して、私と目を合わせて何度も頷いた。
「いやぁ、会えてよかったよ。釣書だけじゃ君の素顔がよくわからなかったから」
と言って、目を細めてニコリと笑う。
──思い出した。
改めて、突然現れたその人に驚いた。
二月の初め頃、父に見せられた写真と釣書。
私の見合い相手だ。