俺と、甘いキスを。
私の父は定年までオオトリ重工で働いていた。私がオオトリ技術開発研究所に就職した時も父はまだ社員として働いていたが、同じグループ会社としても私たちが親子だということはあまり知られないまま父が定年退職したので、私は周りから「コネ入社」などと後ろ指さされることはなかった。
いや、私はコネ入社ではなく、ちゃんと一般の入社試験を受けたのだが。
そんな父の年の離れた後輩が、現在オオトリ電機本社の重役になり、友人として今も続く交流の中でポロリと私の見合い相手を探していることを話したらしい。
気の優しい後輩は、
「お世話になった川畑さんの娘さんならば」
と、今度は自分の後輩の独身男性を吟味して、柴本さんに白羽の矢を立てたらしい。
私は「お見合いなんて」と全く気が進まず、あくまで父の顔を立てるだけのつもりで自分の釣書を送ったのだ。失礼だと思いながらも、最近の写真がなかったため敢えて同封しなかった。
それが、まさか。
ここまで会いに来るなんて。
柴本貴臣は、とても愛想良く話しかけてきた。
「今日はここの事務長さんと打ち合わせがあってね。いつもは事務長さんが本社まで出向いてくれるんだけど、もし花さんの顔が見れるなら、と思って僕の方から研究所へ行こうと思ったんだ。会えてよかった」
さっきまでは峰岸真里奈が椿マリエに言い押されていた場所だったのに。今は私が見合い相手の柴本貴臣に言い押されている。
そして私の時と同じように、真里奈が受付カウンターの奥で静観していた。