俺と、甘いキスを。

スチール棚に掴まって立ち上がった私は、その矛盾した態度にムッとした。

「確かに、私は柏原さんにここへ連れてこられました。でも、右京さんのことはここに来て初めて理解したんです。その姿を見れば、誰だって心配します。私だって…だから、ちゃんと休んで欲しいです」

これは真実と本心だ。

右京蒼士は顔だけ振り向くと「ハッ」と軽く笑った。
「心配、心配っていうのは、もう何十人からも聞いたよ。心配されて仕事が終わるなら、わざわざこんな所に居ねぇよ。「心配してる」なんて言う奴が、じゃあ俺のために何ができるのかって、何もできねぇんだよ」

切羽詰まった、刺々しい言い方にビクリと肩が震える。
彼は体ごと私に向き直って腰に手を当てた。
「お前も随分だよな。あんなメールを寄越しておいて、だんまり決め込んで俺の話を聞こうともしない。お前が、俺と原田の何を知ってるんだよ。勝手なことを言ってんなよ」

この一言には、さすがの私もカチンときた。

「…知っていますよ。知ったから、あのメールを送ったんです。散々私に甘い言葉やキスをしておいて、結局、右京さんは道端の雑草よりも豪華に飾られたユリやバラの方がいいんですよ。桜の木の下で、原田さんと抱き合っていたこと、私が知らないと思ったんですか」

右京蒼士の表情がサッと変わった。少し驚いて「あれは」と言い出したのを、私は「別にいいんです」と遮る。
「右京さんが誰を好きになろうと勝手です。あなたの周りには奥様も、原田さんも、峰岸さんだって、綺麗で可愛い女性たちがいるじゃないですか。私みたいな田舎者を相手にする必要がどこにあるんですか」

もうこの際、既婚だろうと独身だろうと関係ない。彼を単に一人の男として、自分の思っていることを吐き出していた。
返事は、すぐに返ってきた。
< 99 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop