俺と、甘いキスを。
「花、どうしてお前がここにいるんだ?電話もメールも繋がらなかったのに」
言われて初めて彼に送ったメールを最後に、スマホの電源を落としていたことを思い出した。
「忘れてました。スマホの電源を落としたままでした」
やっと視界がはっきりしてきた私は、改めて右京蒼士を見つめた。
いつものサラッとした黒髪が乱れている。両目の下には黒いクマが浮かび疲れた顔をしているのに、目だけはギラギラと執念に取り憑かれたように光っていた。そして、彼の薄く生えた無精髭が、余計にやつれた感じを強調させていた。
──右京さん、痩せた。
柏原さんの言ったことが飲み込めた今、右京さんを心配していることを知る。意味もわからず「私でよければ」なんて言ってしまったが、右京蒼士のこの姿を見ると柏原さんでなくとも誰でも心配になるはずだ。
──私は、あんなメールを送ってしまったけど。
本当に自分勝手だ。
「えっと…柏原さんが心配していました。ちゃんと食べていますか、ちゃんと睡眠をとっていますか」
すると、右京蒼士は切れ長の目を細めて、何も言わずに立ち上がった。さっきまでの柔らかい表情が、途端に不機嫌に変わる。
「柏原さんに言われてきたのか。それならお前には関係のないことだ」
と言って、私に背を向けた。
柏原さんにここへ連れてこられたことの何がいけないのか、私にはわからない。ついさっきまで恋人のような口づけをしたのに、今度はその口で「お前には関係ない」と言う。
右京蒼士との間に、一気に冷たい空気が流れ出した。