シンフォニー ~樹
旅行から戻った絵里加が、艶めいて見えたのは、樹の偏見だけではなかった。
「絵里ちゃんが、お土産を持って来てくれたのよ。一段と綺麗になって。女の子は 恋をすると綺麗になるって 本当だわ。」
母のお気楽な言葉は、樹を傷つける。
「旅行、どうだったって?」
聞きたくないのに、聞いてしまう。
「楽しいに 決まっているじゃない。顔見ればわかるわ。」
絵里加が幸せなら、それでいいと樹は思う。
もう健吾の手に 渡ってしまった 絵里加。身も心も。
そんな絵里加に 興味がなくなることを 願っていたけれど。
樹の心から 簡単には 消えてくれない。