如月くんは私をひとりじめしたい

「如月くん、泣かないで」

「……え?」


如月くんはもう泣いていた。

少し驚いたような顔をして、動揺の雰囲気が隠せていない。

如月くんは遠くを見つめてから、またいつもの如月くんに戻ろうとした。


「ダメだよ!素のままでいてよ!」

「こ、小春ちゃん、何言ってるの?」

「如月くん、約束したよね?私といるときは素でいていいって。如月くんは嫌かもしれないけど、もっと素の如月くんを見せてよ。私、如月くんを全部知って、全部好きになりたいの」

「…ほんと、小春ちゃんには敵わないよ」


諦めたように笑っていた。

それはどんな諦め?

私に対して?それとも素をやんわり隠すことに対して?


「でもね、小春ちゃん。世の中のカップルは相手の全てを知って好きになる人なんていないんだよ。みんな、秘密も見られたくないところもあるんだよ。だから、好きな人の全てを知るなんて無理なんだよ」


分かったみたいに切ない顔して言わないで。

私だってそれぐらい。


「………分かってる。私が恋愛に関して無知なのも、甘ったるいことを言ってるのも全部分かってる。……如月くんは全て隠しちゃうでしょ。言わなかったから余計隠して、絶対見せてくれないでしょ。それじゃあ、嫌なの。ワガママなのも分かってる。言われなくても全部分かってるんだよ。それでも私は如月くんと本音でぶつかりたいの。如月くんを知りたいの」


如月くんはハッとしてから苦しそうに笑った。
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