港町 グラフィティー

雨の夜…

ある晩…
「今から出てこいよ…」
眠い目をこすりながら時計を見る。午前3時05分

「え~どうしたの?こんな時間に…今からなんて無理だよぉ…ママに見つかったらヤバイもん」

「家の鍵なくしちゃてさぁ 入れねーんだよ」機嫌の悪い声だ…

「金もないしさ…」
『わかった…少しだけ待てる?タクシー呼んですぐに行くから』
手際よく服を着替え ソ~~と鍵をはずし家を抜け出す…近所のタバコ屋の公衆電話からタクシーを呼ぶ…。

真っ暗な道をタクシーはひたすら走っている 
その次の信号を曲がった所…聡がタバコを吸いながら座り込んでいた。
タクシーの料金を払って転がるような勢いで
聡の足元に近ずく 聡がヒョイと顔を上げる。
トロンとした目に生気がない。
聡がノロノロと立ち上がり私の手を握る 冷たい手だった。

「どこに行く?」
私は財布の中身を頭で計算する…昨日貰ったばかりの喫茶店の給料が丸々入ってる。
聡は黙ったまま どんどん歩く…国道を越え湾岸沿いの第3倉庫あたりまで来た。もう1時間以上は歩き続けていた。

空は少しだけ白くなって 聡の横顔がハッキリと見える。怒ったようでもあり悲しそうでもあって 私は足が痛い事も言い出せず
ひたすら歩く。

湾岸通りにある消防署までたどりついた時ポツポツと雨が降りだした。

消防車の車庫に飛び込む。シーンと静まりかえった車庫。
聡と並んで座り 消防車のタイヤにもたれかかる。
少し雨に濡れた髪が冷たく 身体は冷え切っていた。
「寒いね・・・」聡の手を包みこみながら聞いた。
「・・・」何も答えず 目を瞑ったままの聡。
少しだけ雨が小降りになってきた。

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