愛溺〜番外編集〜






神様という崇められる存在が本当にいるのなら、俺はその神を恨みたくなった。

何もここまで試練を与える必要はないだろう。


「涼介…どこ行ってたの」

気温差の激しい3月のある日。
長期休み中の時に、彼女───

愛佳は熱にうなされていた。


朝起きた時から愛佳の様子はおかしく、熱は38度を超えていた。

額に冷却シートを貼り、無理して起き上がろうとする彼女をベッドに寝かせた。


その時はまだいつもと変わらない様子だったというのに。

寝たのを確認して、何か風邪の時に食べやすい物を買ってこようと思い、外に出た。

そして家に帰ってきた途端、目を覚ましていた愛佳が目を潤ませて玄関までやってきたのだ。


思わず心臓が止まるかと思った。
それほどに、今の愛佳は心臓に悪い。


「ごめんね、今の愛佳が少しでも食べられそうな物を買いに行ってたんだ。ゼリーとかヨーグルトを買ってきたんだけど、今から食べられそう?」

「……やだ、食べない。
起きたら涼介がいなくて寂しかったの…」


明らかに様子がおかしい。
こんな風に彼女が“寂しい”と口にすることは滅多になかった。

といっても、表情や動作を見ればわかるのだが、今は躊躇うことなく口にしている。


なんて、冷静な分析をしないと病人相手に手を出してしまいそうだった。

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