悪役令嬢ですが、チートが目覚めて溺愛されています

「叔父上」

 ルークが苦々しい顔で、彼をにらんだ。

 彼は隊員の中でも一際異彩を放つ巨躯で、額の切り傷とでっぷりとした腹が目立つ。

「俺はこれからも好きなだけ酒を飲ませてもらう。行くぞ」

 マントを翻す彼に続き、近くにいた三人が席を立った。

「ちょっと、待ちなさいよ……」

「アリス、放っておけ」

 ルークに腕を引かれ、アリスは口を閉じた。

 隊員の中にも、席を立った彼らを注意しようとする者はいない。

「あれは俺の叔父で警備隊副長のジョシュア。一度気分を害すると暴れて手がつけられなくなる」

「暴れる? そんな人が副長なの?」

「国王の兄弟だからな」

 その一言で、アリスは察した。

 ジョシュアは国王に疎まれて辺境の地に飛ばされ、名前だけの副長となったに違いない。

「仕切り直そう。今日は好きなだけ飲むといい」

 ルークが言うと、隊員たちは食事を再開した。

 かわるがわる挨拶しにくる隊員の名前を、アリスはできるだけ覚えた。

 そのうちに芸を披露する者が現れ、いつの間にか笑っていた彼女を、ルークも笑顔で見つめていた。

< 64 / 215 >

この作品をシェア

pagetop