空よりも海よりもキミのことを知りたかった。
「颯翔くん」


もう一度名前を呼ぶと、颯翔くんが私の方に顔を向けてくれた。

その眼差しはどこかまどろんでいて視線の先が定まっていないように思えた。


「さっきは助けてくれてありがとう」

「あ、うん...」

「空手やってたんだね。すっごくカッコ良かったよ。それとその浴衣も大人っぽくてとても似合ってる。こんなに浴衣が似合う人初めて見た」

「そ、それは大げさだ。でも...ありがと」


薄暗くて顔が赤くなっているのか良く見えなかったけど、颯翔くんは照れ屋さんだからきっとゆでダコみたいになっているんだろうな。

そういうところがいとおしい。


「あ、あのさ...」

「ん?何?」

「せっ、瀬生さんも...瀬生さんも似合ってる、その浴衣。紫陽花キレイだし」

「そうかな?ありがとう。嬉しいよ」


お世辞でも誉められるとやっぱり嬉しい。

誉められて嫌な気分になる人はこの世に1人としていないと思う。


「この浴衣はね、誕生日の前祝いにお父さんが買ってくれたものなの。中2の時から毎年これだから幼なじみには飽きられてるけどね」

「いや、オレは良いと思う。物を大事にする人...オレは...その...好きというか、なんというか...」

「ありがとう」


好き...か。

颯翔くんから好きって言われたいな。

今の一瞬でもきゅんと来たのだから、きっと心から好きだって言われたら私幸せ過ぎてもう死んでもいいって思うのかもしれない。

そのくらい私は颯翔くんの"好き"を欲している。


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