空よりも海よりもキミのことを知りたかった。
樹くんは本物の猿のようだと思った。

サイズが小さい分小回りもきくみたいで俊足ながらも絶妙に人を避けていった。

私は手に持っていた下駄を履き直した。

お気に入りの青い鼻緒が泥にまみれて茶色くなっている。

家に帰ったら洗剤をつけて念入りに洗うしかないな。

鼻緒に思いを馳せた後、堤防に寄りかかって海を見つめる颯翔くんの左隣に行った。

日が地平線の下に潜り、辺りはすっかり暗くなった。

それでも近くに行けば颯翔くんの顔をはっきり見ることが出来る。

その横顔を見つめながら私は思う。

本当は青空さんと来たかったのかな。

今隣にいてほしいのは、向日葵よりも眩しくて花火よりも美しい元気になった青空さんなのかな。

ここにいるのが私で...ごめんなさい。

感傷的になっていないでちゃんとさっきのお礼を言わなきゃ。

私は颯翔くんの横顔にそっと話しかけた。


「颯翔くん、さっきはありがとう。空手習ってたなんて知らなかったよ。私まだまだ知らないことばかりだね」


颯翔くんは何も答えない。

私の声が聞こえていないのかもしれない。

私の想像通り、青空さんのことを考えているのかな。

私が颯翔くんを想うのと同じくらい、いやそれ以上に颯翔くんは青空さんのことを想っているのかもしれない。

私はただの友達。

しかもここ数ヶ月しか同じ時を過ごしていない。

過ごして来た時間の長さと関係の深さは比例することがほとんど。

でも私の周りは法則の通り深い関係を結んでいても、それとは別の場所では法則を打ち破り、結ばれたり結ばれなかったり様々だった。

私は法則の通りに生きていくしかないのかな。

私がどれだけ想っても、颯翔くんは私を想ってはくれないのかな。

そう考えると、切ない。

胸がちくりじゃなくてズキズキと痛む。

私はこの感情をいつまで持ち続けるのだろうか。

この気持ちに終わりはあるのだろうか。

波打ち際のように、この気持ちが押し寄せて引いていく境界線に、私は今、立っているのかもしれない。


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