上司は優しい幼なじみ
食べ終えお店から出ると、「乗っていくでしょ?」と当然のように車に促した。
こくりと頷き、助手席に乗り込む。
車内にジャズが流れ、心地よいサウンドが眠気を誘う。
ウトウトし始めたところで、たっくんが口を開いた。
「陽菜、寝た…?」
その声があまりにも妖艶で、意識はあったものの、寝たふりをしてしまう。
「俺、陽菜に告白されて、すげー嬉しかったよ」
…っ!!
たっくんの口から放たれる甘い音色が、流れるジャズと混ざり合う。
鼓動が速くなる。それでもなお、寝たふりを続ける。
髪に触れられるのが分かった。
優しく指を通し、大きな手が私の頬を包み込む。
そして、唇に温かくて柔らかい感触。
思わず、瞼を開いてしまう。
たっくんの綺麗な瞳から目が離せなかった。
その目に少しずつ、焦りの色が混ざっていく。
「…たっくん?」
「…っ!!」
たっくんは運転席側に態勢を戻した。
しばらくの沈黙の後、彼は低い声でつぶやいた。
「…ごめん、忘れて」
その言葉に、心臓がえぐられるような強い痛みを覚える。
間違いなく、たっくんは私にキスをした。
思わず彼の腕をつかみ、こちらを向かせる。
その目に焦りの色が残っている。
「私…たっくんにフラれたんだよ…ね?」
「…っ」
「どうして、キス…したの?」