上司は優しい幼なじみ
好きならどうして…

気づいたらたっくんを強く抱きしめていた。
厚みがあり、程よくついた筋肉。
’好き’という感情があふれ出しそうで、涙目で彼に訴える。

「付き合え…ないの?」

「…今は、ごめん。まだそこまでの関係には…」

その真意はわからなかった。
お互い好きなのに、付き合えない。
役職を持つ彼には、きっと私には想像もできない事情があるのかもしれない。

「そしたら…今夜だけでいいから、私を抱いてください」

「陽菜?」

抱きしめる腕に力を込める。
こんな大胆なセリフをいうなんて、自分でも驚きだ。

でも、気持ちを止められない。

ネクタイをぐっと引っ張り思い切り背伸びをして唇を重ねた。
ゆっくり離れると目を大きく見開き、私を見下ろした。

「お願い、たっくん。そしたらもう忘れるから…お願い」

ベッドまで半ば強引に引っ張る。
だけどたっくんの力に敵うはずもなく、途中でつかんでいた腕を離された。

「…陽菜、止められなくなるから俺。今日は帰るよ」

「…止めないでよ。止めなくていい」

「いやっ…」

「私が山本さんだったら、違った?」

部屋に私の声が響き渡る。
その言葉に、たっくんは怪訝な顔をした。
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