上司は優しい幼なじみ
「なんか、たっくんを見ていると…不思議に思うんだ。どうして私なんかと付き合ってくれてるんだろうって」

水面に映る、ゆらゆらと揺れる大観覧車を眺めながら、小さくそうつぶやいた。

「陽菜」

顔を上げると、そこからはほんの一瞬の出来事だった。
視界が暗くなり、それと同時に唇に触れた感触。

ゆっくりと影が取り払われる。
目の前の彼の表情があまりにも妖艶で、その目線は私をしっかりと捉えて離さない。

「’私なんか’なんて思わないで。陽菜は素敵な女性だよ。陽菜自身が自分を蔑むようなこと、言わないで」

「たっくん…」

身体が勝手に彼の唇を求めた。
精一杯背伸びをすると、彼も腰を屈め、再び唇が触れ合った。


夜景の見えるレストランで夕食を済ませ、帰りの車内。
私は窓の外の移り行く景色をじっと眺めていた。

赤信号で車が停車し、たっくんがゆっくりとハンドルから手を離す。

「陽菜…」

離れた片手が私の手にそっと触れ、視線が交じり合う。

「今日、俺の部屋に連れて帰ってもいい?」

「…うん」

このまま帰るのは寂しいと思っていた。
でも口に出すのが我儘なようで言いづらく、躊躇していた矢先、彼からその言葉を貰いニヤけそうなほど嬉しかった。

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