上司は優しい幼なじみ
「…陽菜ちゃん、幸せは自分でつかみにいかないとダメだよ?子供のころから好きだったんでしょ?その恋が実ったんだもん。陽菜ちゃんは待てるはず」

真由美ちゃんのその言葉に強く胸が打たれた。

気づいたら好きになっていた、幼馴染のたっくん。
彼が引っ越してしまい、誰にも言わずに終わった初恋。

連絡もしなくなり、もう会うことはないだろうと思っていた矢先、大人になって意外な場所で意外な形で再会した。

そこに至るまでの年月を考えたら、海外で活躍する彼を待つことくらい、難しいことじゃないじゃん。

「陽菜ちゃん、今ね、すごく会いたそうな顔しているよ」

「えっ」

真由美ちゃんは両肘をテーブルにつき、手で頬を包んで笑みを向ける。

「注文、まだしてないんだし。行ってくれば?」

「え、でも…」

「大丈夫!どうせ最初から、今日はここで夜ご飯済ます予定だったし。ねっ?」

…絶対嘘じゃん。

零れる涙を指でぬぐい、「ありがとう」と言い席を立つ。

店に出るなりカバンからスマホを取り出し、たっくんに電話を掛けた。
電話口からはコール音が続き、諦めて切ろうと思ったその時。

『…陽菜っ?』

「たっくん…ごめんね、今大丈夫?」

『あぁ』

「話したいことが、あります。今から会えますか?」

しばらくの沈黙。周りの音も耳に入らず、自分の心臓の音だけがバクバグと速度を上げている。

『わかった。もう帰ってる?』

「ううん、まだ電車に乗ってないよ」

『じゃあ車で。いい?』

店前から動かずじっとたっくんを待った。
行きかう人々がスローモーションに動いているように見え、無意識に緊張しているのだと実感する。

見慣れた車が目の前に停まり、助手席のドアを開けた。
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