年の差婚で娶られたら、国王陛下の愛が止まりません
 昨夜のお母様を思い浮かべながら、私はベッドヘッドを支えにして立ちあがると、重い足を引きずって文机に向かう。引き出しにトンボ玉をしまうと、力なく寝台に戻る。その時に、ふと部屋に設えられた姿見に目がいった。
 そこには、レースをふんだんに用いた洒落たネグリジェに身を包む少女が映っている。少女は小柄で痩せていて、こけた頬をしていた。しかしその豪奢な装いなどを鑑みれば、多少痩せて細かろうが、誰も少女が食うに困っているとは思わない。
 事実、私と顔を合わせるお客様は、誰もかれもが微笑みと共に「好き嫌いせずなんでも食べませんと大きくなれませんよ」と、こんなふうに告げる。
 私はそれに、いつもはにかみながら頷く。そんな私を、横からお母様が貼り付けた笑顔で見つめている。笑顔の奥で、お母様は娘の私を鋭い目で睨んでいる。けれど扇子で口元を隠し、目を細くして微笑むお母様の狂気に、気付く者は誰もいない。
「……ふふふ、私に好き嫌いなんてないよ。だけどそうだなぁ」
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