未明の三日月 ~その後
「あのね、佳宏。今まで、ごめんね。」
佳宏の手から 上着を受取って、美咲が言う。
「えっ。何?美咲、何かしたの?」
佳宏は驚いた顔で、美咲を見る。
「もう。何もしてないよ。何もしてないから、ごめんね。」
美咲は 苦笑して、もう一度 佳宏に言う。
「何で。俺 怒ってないよ。」
佳宏は そう言ったけれど、多分 美咲の気持ちに 気付いていた。
そっと美咲を抱き締めた。
「私 今まで どうかしていた。佳宏のこと こんなに好きで 感謝しているのに。本当にごめんね。」
美咲の目から 涙が溢れる。
「美咲は、一生懸命やっているよ。詩帆ちゃんのこと 頑張っているじゃない。」
佳宏は 美咲の背中を 優しく撫でる。
「詩帆ちゃんのことも もっと佳宏に 甘えればよかったのに。馬鹿みたいに 一人で抱え込んで。ごめんね。本当にごめんね。」
泣きながら 途切れ途切れに 美咲は言う。
「泣かないで。詩帆ちゃんが驚くよ。大丈夫だから。俺は 何とも思ってないよ。」
佳宏は 優しく 美咲の背中を撫で続ける。
「だって。」
美咲は 涙を抑えて 顔を上げる。
「ねえ せっかくのご馳走 早く食べようよ。詩帆ちゃんが眠ったら また泣いていいよ。」
佳宏は 照れた顔で 美咲を見る。
美咲が小さく頷くと そっと美咲の頬を触った。
「急いで 着替えるからね。」
そう言って。
「お味噌汁、温めてくるね。」
美咲は涙を拭って寝室を出た。