さよなら虎馬、ハートブレイク
「ごめん、お母さんが変なこと言って」
「ううん、全然大丈夫。でも面白いひとだよね」
「あのひとの血が半分流れてると思うと憂鬱だけどね」
はは、と引きつり笑いを浮かべてから自分で淹れたホットミルクのマグに口をつける。うーん、やっぱ冷え込む時期のホットミルクは格別だ。
鼻の下につくった白ひげをぺろりと舐めていると、それを微笑ましそうに見ていた天の河とぱち、と目があった。
「でも、元気になったみたいで良かった」
「うん、薬飲んでずっと寝てたからね。てかごめんね、連絡すればよかった。お見舞いなんて良かったのに」
「みんなはね、気を遣って学校来るまで待とうって言ったんだ。でもちょっとズルした。あと二日も待てなかったんだ」
「…」
「僕が凛花ちゃんに逢いたかっただけだよ」
真っ直ぐに伝えられて、お、おぉ、と口ごもる。
相変わらず視線を感じるから居た堪れなくて、マグを置いて。ちら、と伏せた目線を持ち上げた途端。
身を乗り出した天の河のおでこが、こつりと私にぶつかった。
「…もう熱、なさそうだね」
「…うん」
「…」
「…なんであんたが赤くなってんのよ」
「だ、だっ、て」
指摘しただけでぼん、と茹でダコみたいに真っ赤になってしまう天の河に、つられて私もぼんっ、と熱くなる。
「やめてよ! うつるじゃん!」
「お揃いだね。えへへ」
「なにがえへへだ! デレデレしちゃって、ばっかみたい」
付き合ってらんない、と照れ隠しで中座したのがバレたのか、その時きゅっ、と手を掴まれた。赤い顔で振り向く私に、彼の目が私を射る。
そこで、その手を軽く引かれた。
…洗剤の匂いがした。
天の河の衣服には少し外の香りも混じっていて、抱きしめられた私は、少し間を置いてからその腕に手を添える。
天の河は、賭けに出たんだ。体育祭のあの日のことを思い出して、たぶん私より怯えていた。だからその肩が少しだけ震えていたんだと思う。
「………すごく心配したんだよ、体育館で倒れたとき」
「…ごめん」
「最初、なにが起こったかわからなくて。でも、すぐ、騒ぎが大きくなったから凛花ちゃんが倒れたって気づいてさ。
…人混み掻き分けて、近付こうとした。そしたら、藤堂先輩がいて」
「えっ?」