【完】淡い雪 キミと僕と
思い出したかのように顔を上げた彼の瞳にやはり涙は見当たらなかった。
けれど、彼の後ろで、小さな子供のままの彼の分身はきっと泣き続けているのだ。
「お母さんは、どうして…心の病気って…」
どこまで、彼の中へ踏み込んでいいかは分からなかった。
どんな言葉を使っても彼を傷つけない言葉が見当たらなくて、選ぶようにゆっくりと語りかけた。
わたしは何という気の利かない女なのだろう。
空っぽな人生を歩んできて、本当の幸せの意味など見出す事も出来ずに、心臓だけを忙しなく動かしていく、価値のない生き物なのだ。
「あぁ、まぁそういった性質だったんだろうな、生まれた時から。
まぁあの人だけは責められんよ。少なくともそうさせた一因は父親にもあると思っているから。
あの人にとっては俺がストレスのはけ口だったんだろうなぁ。こうな…小さい頃は殴られたりしててさ…。大きくなって虐待の映像を見て、あぁあれって虐待だったんだなぁって思うくらいの事はされていた。
でも可哀想だとも思うけどね、そうしなければいけない心の弱さを持つ事しか出来なかった母親は。だから恨んじゃいない
でも自分の存在を否定するくらいは、自分を憎んだかな…。必要とされていないのならば、何故生まれたのだろうって。
きっと俺は、みすぼらしく母猫に見捨てられた雪を…自分と重ねていた。
ハハッ、何で俺アンタにこんな事を話しているんだろうな……」
だから、何で笑っているのだというのだ。
どうして自分の気持ちを隠して、笑ってられると言うのだ。
可哀想だと思うとか、恨みはないとか、そんな物分かりの良い、綺麗な言葉なんかいらないんだよ。