【完】淡い雪 キミと僕と
1.美麗『山岡 美麗 24歳 受付嬢』

1.美麗『山岡 美麗 24歳 受付嬢』




事の始まりは3か月前。


「今からお前の家に行く」

男はたった一言だけ言い残し電話を切った。
そして10分後、家に来た早々大荷物を玄関先に置いて
小汚い小さな段ボールをそーっとこちらへ差し出してきた。
この男にしては、珍しく申し訳なさそうな顔をしていたとは、思う。


「何、これ?」

渡された段ボールの中身を開けると
そこにはネズミ?!いや、違う。宇宙人?いや、それもまた違う。

小さすぎる体。ぽろりと零れ落ちそうな大きな真っ黒の瞳。小さな口から力なく「ミャーミャー」という鳴き声がかろうじて聴きとれた。

ネズミではなくて、もちろん宇宙人でもない、目の前の段ボールで力なくこちらに何かを必死に訴えかける生き物は、正真正銘猫だった。


小汚い段ボールに入っていた。
小汚い、子猫。
まだ生まれて数週間だと思われる。
白、というよりは雪解けの砂と泥の混じり合っているくすんだ雪の色に近くて
うっすらとクリーム色の模様が所々に入っている。

お世辞にも綺麗と呼べる猫ではなくて、それどころかちょっと小汚い。
手のひらで潰したら死んじゃうくらい小さくて、どこか惨めったらしい猫。


連れてきた男は悪びれる事もなく、二人掛けのソファーにだるそうに腰を下ろした。
そして、ぶっきらぼうな言い方で言うのだ。

「お茶くらい出せよ」

何だ、こいつ?!
何を偉そうに?!
説明のひとつもせずに薄汚い子猫をこちらへ放り投げて、更にはお茶くらい出せよ?だと?

何様だ。いや、こいつがこういう男だって事くらいとっくに知ってはいたが、それにしたって苛々してますよ風に貧乏ゆすりをして鋭いその瞳でこちらを睨みつける。その態度はいかがなものだろう。

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