【完】淡い雪 キミと僕と
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琴子に、そんなにあの男井上晴人が好きか?と訊ねた事がある。
彼女は両手の拳をぎゅっと強く握りしめ、顔を真っ赤にして、目を伏せ、それでも迷いなくハッキリと口にした。
「好き――――」と。
人をこれ程までに羨ましく思った日はない。
あの平凡な男になりたいと思わない日などない。
西城グループの全てを捨ててでも、欲しかった物は決してその手の中には掴めない物。地位も名誉も金も、その曇りなき想いの前では、薄っぺらく自分を飾り立てるただの宝石にすぎなく、しかもその宝石はイミテーションだ。
本物というのは、尊い想いの中に潜んでいる。本物に見せかけた偽物ばかり手にしていて、本物は結局最後まで手に入れる事が出来なかった。
それでも琴子と井上晴人の想いはすれ違ったまま、見ててもどかしい程。
互いを想いやってるのに気づいていないのは当人同士だけなのだが、俺は意地悪だから、そんな事教えてやんない。
いつか、いつか、君が振り向いてくれるのならば、それが何年掛かっても構わないと思ったんだ。全く持って自分らしくない感情を教えてくれたのは、彼女だ。
冗談で、俺と付き合う?と訊くと、井上晴人の事を忘れる日が来たらそれもいいかもと言って、10年以上かかるかもしれないけどね、と悪戯な笑顔をで付け足した。
’それでもいいよ、待つよ’ここまで人に想いを寄せた事など無い。
彼女への想いを言葉で言い表そうとすればする程分からなくなる。
でも、恋つー正体のないバケモンみたいな感情ってそういうものなんではないだろうか?この人のどこを好きかなんて説明は出来なくて、理屈じゃなくて、ただただ好きなんだ。