清廉で愛おしい泡沫の夏
迎えに来た
 「…どうしてあなたがここに?」
 
 翌朝、学校へ行こうと、先に玄関を出た美泡から、そんな声があがった。
 「…迎えに来たんだよ。」
 不機嫌を前面に出す失礼な男。
 「そ、そう。」
 珍しく、美泡も少し驚いたようだ。
 
 「なぜ、あなたなの?」
 「あ⁉俺じゃわりぃかよ!」
 「…ガラが悪いわね。別にそういうことを言っているわけじゃないわ。」
 美泡が、ちょっとだけ美泡のペースを乱されてる・・⁉
 人に感情を動かされない美泡が、珍しくちょっとイラっとしている。
 美泡と要は、相性が悪いのかもしれない。
 
 「…俺が一番家が近いから、迎えに行けって言われたんだよ!」
 「へぇ、あなたの家はこの辺なのね。」
 「文句あんのかよ?」
 「誰に迎えに行けって言われたの?」
 「廉と総だよ。」
 「…命令に従うのね。」
 「あ⁉別に、し、従ってるとかじゃねぇし。」
 お、今度は要のほうが乱されてる。。
 これはもう美泡のペースね。完全に要で遊び始めたよ、、
 案外相性いいのかも。




 登校中は終始、要が美泡に遊ばれていた。
 …明日からもう要は迎えに来ないかもしれないわね、、、
 
 「ね、聞いてる?美夏ちゃん。」
 「…え?あ、ごめんなさい。なに?」
 声をかけてきたのは、仁だ。
 先ほど授業が終わり、また、昨日と同じ4人で、お昼ご飯を食べていた。
 「美夏ちゃん、あんまりしゃべらないよね、いつも美泡ちゃんしかしゃべらない、、」
 「あら、あたしじゃ不満?」
 「いや、不満とかじゃないよ?なんでかなって思っただけ。」
 私があんまりしゃべらないか…意識したことなかったな…
 「んー、、私が言いたいことは全部美泡が言ってくれるし、、喋る必要がない、からかな…?」
 「へぇ、すごいね。以心伝心ってやつか!」
 「んー、…そんな感じ。」
 「すっげぇ!」
 2人はすごく楽しそうだ。
 でも、生まれた時から一緒なんだし、そんなにすごいことでもないと思うけどな…?


 ガラガラッ…
 
 教室の前の扉が開いたので、反射的にそちらを見ると、
 「…あ、、」
 「ん?なに…」
  
 ガンッバンッガタン!
 「「「お、お疲れ様です!!」」」
 
 扉に背を向けて座っていた、仁と渚が、振り返った途端に、立ち上がり、頭を下げた。 
 仁と渚だけでなく、教室にいた何人もの人が、同じようにしている。
 その分のいすや机が、驚きによって倒れたので、すごい音がした。
 教室中を驚かせた当の本人は、相変わらず颯爽と歩いてくる。
 こちらへ向かって。
 、、こちらへ向かって…?
 な、なんでこちらへ向かってくるの、、、⁉
 また見てる、見てるよ、、ちょー見られてるよ…
 そして、やはり、私たちの前に、止まった。
 そしてまた私を凝視。
 何なのこの人、、、こわいよぅ、、

 「…来ないのか?」

 ど、どこに⁉
 廉から発せられた言葉に理解が追い付かない。
 
 「昼休みに屋上に来てって要から聞いてない?」
 と廉の言葉を補完してくれたのは、廉の後ろから、ひょこっと出てきた総だ。
 「聞いていないわ。」
 と美泡が答えた。
 まぁ、さんざん美泡に遊ばれてたしね。言うこと忘れちゃってもしょうがないよね、ちょっと要がかわいそうになってきた。…今更だけど。
 「じゃあ、今から行かない?」
 「えぇ、いいわよ。」
 総の誘いに、美泡が頷く。
 それを見て、廉は来た道を戻り始める。
 その後ろに総も続き、美泡も広げたお弁当を片付け始める。
 美泡に倣い、私も片付けるが、
 「…仁と渚は?」
 2人が動かないので、思わず声をかける。
 「えっ、俺たちは行かないよ、、」
 「…なんで?」
 「え、なんでって、そ、そんな身分じゃないし、、」
 「…屋上に、何かあるの?」
 「んと、なにかあるってわけではないんだけど…」
 「と、とりあえず、今日は2人で行ってきて?」
 「…んー、、わかった。。」
 仁と渚が全然行こうとしないので、とりあえず、ということで、美泡たちの後ろを追っていく。


 屋上には、20人ほどの人が集まっていて、いくつかの塊になって各自でお昼ご飯を食べていた。
 先ほどのような挨拶はなく、廉が入ってきてもみんな普通にしていた。 
 廉は、その中を奥のほうに向かって歩いていく。
 向かった先には、要と琉の姿があった。
 「あ、お帰りなさい!」
 廉と総を見るなり、琉が元気に言った。
 「美泡さん、美夏さんもこんにちは!」
 「こんにちは。琉。」
 「…こんにちは。」
 琉は元気ね。それにしてもどうしてさん付けなのかしら。
 年下?私たちが1年生なのにそれはないわね。。。
 
 「要、2人に屋上のこと言い忘れたね?」
 「い、いや、…」
 「いや、なに?」
 「、、っなんでもない…」
 要は、総に責められていた。
 ごめんね、要。うちの姉があなたで遊んでいたばっかりに。
 「まぁ、それで、2人が来ないから、迎えに行ったんだよ。」
 と、総が私たちに向き直ってそう言った。
 「昼休みはいつもここにいるんだ。ここにいるのは、龍星の幹部が18人と、俺たち4人だ。」
 幹部の人たちなんだ。。だから仁と渚は行かないって言ったのかな。
 ていうか、2人も龍星だなんて知らなかったよ。。。
 
 「この学校にいるDarkは、旧校舎に溜まってる。」
 と言って総は、下を指さした。
 さされたほうを覗いて見ると、そこには確かに旧校舎らしい古い建物があった。
 「奴らも屋上に俺らがいるのは知っているが、さすがにむやみに襲ってきたりはしない。Darkの総長は違う学校にいるしね。
 だから、2人には昼休みはここにいてほしいんだよね。ここは俺らもいるし、安全だから。」
 「そういうことね。まぁ、あたしはいいのだけれど…」
 総の言葉に美泡が頷く。
 「美夏ちゃんは?」
 これからは、屋上でご飯を食べるってことだよね。。。私は、、、
 「…私は、いやよ。」
 「だと思ったわ。ということだから、あたしたち教室に戻るわ。」
 というと、美泡はすぐに立ち上がる。
 私もすぐに立ち上がる、が、
 「…え、、」
 廉が、私の制服の袖を掴んで、私を止め、私を見つめる。
 …な、なんで見つめるの、、、せめて、なにか言って、、、

 「…なんで」

 い、言った、、けど…なにが⁉
 こ、この人毎回言葉足りなすぎじゃない…?
 「美夏ちゃん、なんで屋上で食べるの嫌なの?」
 総が、また廉の言葉を補完する。
 「…仁と渚が行かないって、言うから。」
  
 「…男か、、?」
 「え?…えぇ、男の子よ。」
 「…好きなのか、?」
 「え?…そ、そうね。好きよ、、、?」
 「…そうか。」
 と言うと、廉は私の袖を離した。
 ??? 私に一体なにを聞きたかったの??
 「行きましょ、美夏。」
 美泡は、なぜかすごく楽しそうで、必死に笑いをこらえているような感じだった。
 




 








 
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