青春ヒロイズム


振り向いてナルのことを引き止めようとした手が、勢い余って彼女の肩を強く押してしまう。

階段でよろけたナルと、そばにいた彼女の友人たちが、「あ」と焦ったように小さな声をあげた。

咄嗟のできごとに身動きが取れずにいる私や他の子たちの前で、バランスを崩したナルが大きく目を見開く。

声にならない悲鳴をあげながらこっちに向かって手を伸ばしたナルが、背をそらすように後ろに落ちていく。

ナルが床に落ちる鈍い音とともに、周りで叫び声にも似た悲鳴がいくつもあがって。倒れたナルの周りに友達や周りにいた生徒たちが集まる。

私は自分がしてしまったことへの恐ろしさで、その場に立ち尽くしたまま全身で震えていた。

そっと振り向くと、森ちゃんが感情のない目で私をジッと見つめていた。

その日のそのあとの記憶は、頭が真っ白になってしまってほとんどあやふやなのに、森ちゃんの冷たい瞳だけはずっと記憶の中に残ったままでいる。


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