青春ヒロイズム


適当に余っている筆をとったものの、何をどうすればいいかわからない。

困っていると、横断幕制作の中心になっている女子に話しかけられた。


「あ、深谷さんも手伝ってくれる?だったら、そこを赤で塗って欲しい」

「あ、うん」

彼女の指示で、絵の具を置いた新聞紙から比較的近い場所に座って布の上に筆を置く。

まだ真っ白なその部分に色を付けるのは私が初めてだったから緊張した。

丁寧に少しずつ色を載せていっていると、不意に教室の中がざわつき始めた。

作業の手を止めて顔をあげると、競技の練習を終えた男子たちの集団がぞろぞろと教室に入ってくるのが見えた。

そのなかに星野くんの姿を見つけて、不本意にもドキリとしてしまう。


「あれ?カナくん、イチゴミルク飲んでるとか珍しいね」

慌てて視線をそらして色塗り作業に戻ろうとしたら、村田さんの声がした。


「ぼーっとして押し間違えたんだって」

「うるせぇな」

石塚くんの笑う声がして、それに続いて星野くんの不機嫌そうな声が聞こえてきた。


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