本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
「…場の雰囲気に流されるのは俺だけにしとけよ。他の男が近寄っても自分自身で対処する事!」

「………?何でですか?」

「つまり、そのままの意味だ。仕事上、一ヶ月間の所有者は俺だ。他の男との恋愛沙汰は一切禁止だ」

「良く分からないのですが、支配人とは恋愛しても良いのですか?」

「……さぁな。自分で考えろ」

一筋縄では行かなそうな成り行き任せの恋愛もどきは、正直どうして良いのか分からない。

自分自身の恋心にセーブをかけているのに、崩壊寸前なのは横にいる支配人のせい。

今日は同僚としてのデートでも、明日からは上司と部下。

「……じゃあ、一ヶ月間は所有されます。延長は可能ですか?」

何となくだけれど、罠を仕掛けるかのように聞いてみた言葉。

どんな反応をするのだろう?

「仕事上の所有期間は一ヶ月だ。その他は延長可能だ」

「そうですか…」

淡々と会話が進んで行くが、肝心な話はしないままだった。

「とにかく仕事は一ヶ月間で覚えて、目標を探せ。その他はゆっくり考えてくれれば良い。さっきは先走って悪かったな…」

「先程からの"その他"とは何ですか?」

「……本気で分からないのか?」

「ふふふっ」

「………っ、篠宮のくせにからかいやがって。本当は分かってるんだろ?」

「何となく…」

お互いがお互いを気にかけている段階だからか好きだとか愛してるとか、そんな言葉はなく、駆け引きを続ける。

冷静さを保てないのか、普段は冷酷鬼軍曹のポーカーフェイスが崩れて、ほんのりと頬が赤い支配人が可愛い。

駆け引きは続き、食事を終えて、寮から少し離れた場所に送り届けられて車を降りる間際に、

「お前が遅番の時は起こしに来い」

と命じられた。

「寝起きが悪いので嫌です」とお断りをしたが、「却下」と即答される。

成り行き任せの恋愛関係もとい所有関係は今後はどう動くのか、自分でも想像出来ない。
< 38 / 240 >

この作品をシェア

pagetop