本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
「……合意の上で"したい"から、嫌じゃなかったら目を閉じて」

これから"される"事が分からない程、子供ではない。

流されるままに目を閉じると、シートベルトを外す音が聞こえて唇同士が重なる。

誰も居ない二人だけの空間、二人だけの秘密。

愛しているかも、愛していないのかも分からずに交わしたキス。

大人の階段を登るという事は、好き合っているかどうかも確認をせずに発展してしまう事なのだろうか?

理屈では流されてはいけないのだと理解はしていても、理性に歯止めが効かなかった。

一度目は触れるだけのキス、二度目は吐息が漏れるようなお互いを確かめ合うキス。

「……っふぁ」

「ココが車内で良かったな。歯止めが効かなくなるところだった…」

解放された時には息も絶え絶えな私の頭を優しく撫でて、再びシートベルトをする支配人。

車が走り出し、駐車場から車道に出て少しだけ時間が過ぎた後に問いかける。

「…あの、えっと、」

「………?何だ?」

「…やっぱり何でもないです」

『恋人同士になれますか?』と聞いてみようと思ったけれど、支配人にとっては一時の迷いでキスをしただけかもしれないので、言葉を飲み込んだ。

キスぐらいで付き合えだなんて幼稚だって笑い飛ばされるかもしれないから、背伸びをして確認する事を我慢する。

キスぐらい大丈夫、キスぐらい平気。

ちょっと優しくされたからって、勘違いして好きになったりしない。
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