本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
業務終了後に退勤を押してから支配人室に向かい、ドアを開けるなり、機嫌の悪そうな支配人が椅子に座っていた。

思わずドアを閉めてしまいそうだったけれど、ビクビクと怯えていて入れない私に気付き、「さっさと入れ。お茶ぐらい入れてやる」と言われて仕方なく重い足取りを前に進める。

「お茶を入れて来るから、大人しく座ってろ」と言われ、支配人が今まで座っていた椅子に誘導される。

支配人の椅子は座り心地が良く、背もたれに背中を付けて思い切り反り返り、背伸びをしてみた。

この椅子で眠れるかもしれないな。

高級感のあるレザーのふかふかな椅子ではないのに、背もたれが軽くて動きやすく、座る部分もクッションがフカフカで不思議な椅子。

長時間のデスクワークもこなせそうな椅子が気に入り、クルクルとゆっくり回転していると…

「その椅子が気に入ったのなら、支配人を目指すんだな」

紅茶を乗せたトレーを持つ支配人の声が聞こえた。

「………!?」

「叱責された方が恥ずかしくなかっただろ?子供みたいだな、お前は…」

確かに怒られた方が恥ずかしくなく、気まずくもなかった。ニヤニヤと笑う支配人が憎たらしくて、頬を赤くしながらもプウッと膨らませる。

そんな私はお構い無しに、カチャリと紅茶のカップを乗せたソーサーをデスクに二つ置き、その横にはチョコレートの箱が置かれた。

「お客様のお土産だ。本場ベルギー限定のものだそうだ。開けてみな?」

ベルギーが本店の高級チョコレートは、なかなか口にする事は出来ない代物なのに…、更には本場限定品とは!

この上ない幸せです。

蓋を開けると綺麗なチョコレートが並んでおり、同じ物は一つもなかった。
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