本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
「そうか、なら安心した。それより…身体は大丈夫か…?」

「……あ、えと…大丈夫じゃないです。何だかダルいです…」

身体を気遣って、信号待ちの時に私に問いかけて来たけれど…誰のせいで、身体がダルいのか今一度考えて下さい!

信号待ちだからって、流し目で見るの止めて下さい!

昨日の夜の事、朝の事、色々と頭の中を駆け巡ってしまうから───……

「……なら、行くの辞めてベッドに戻るか?添い寝ならいくらでもしてやる」

「だ、だからっ、そうじゃなくて…!」

「顔真っ赤…、本当に可愛いな、恵里奈は…」

一颯さんが余裕過ぎて憎たらしいので、嫌味を言ったつもりが逆手に取られた。

まるで子猫を撫でるかの様に優しく髪の毛をクシャクシャと撫で、クスクスと笑っている。

恋愛経験も乏しい私には、一颯さんみたいに余裕がある訳ではなく、ちょっとの事でも過剰な程に反応してしまう。

「い、…一颯さんみたいに…よ、余裕なんて私にはないんです」

「余裕…?恵里奈に対しては俺も余裕なんてないつもりだったけど。見張ってないと危なっかしいし、悪い虫は寄って来るし…。不安要素だらけで毎日のようにハラハラさせられてるんだけど…!」

「そうは見えませんけど…?」

「まぁ分かって貰おうとは更々思ってはいないけど…、恵里奈に逃げられないように日々頑張ってるところです」

「逃げたりしませんよ、私…?」

運転をしている一颯さんの横顔を見ながら、笑みを浮かべる。

大切に扱われているのは分かる。

一颯さんと共に歩んで行く為には、私自身もステップアップしなきゃ!

「一颯さんと一緒に居られるように私も頑張りますね。いつか、一颯さんがドキドキしちゃう位の女性になって、跪いてくれるようになりたいです」

「…ははっ、気長に楽しみに待ってる」

「気長には余計ですよっ!」

私は本気で言っているのに、冗談半分に聞いているのか笑っている。

「今でも充分、綺麗だよ。あんまり綺麗になられると悪い虫を追い払うのも楽じゃないから、程々に…」

優しく頭を撫でて、小さな声で呟く。

余りにも声が小さ過ぎて聞き取れなかったけれど、横顔はほんのり赤みを帯びていた。

何となくだけれど、少しだけ照れているのかな?珍しい、新たな一面の一颯さんを見れて嬉しい。
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