慈愛のケモノ
それだけ聞けば、相手が誰かすぐに分かった。気持ちを入れ替えて、電話を取る。
遠月さんから逃げて、二週間が経とうとしていた。
あれから忙しくなって、同じフロアなのに真希とも全然会わない。
遠月さんからは何度か、連絡があった。どちらも取らずに消した。
もうそれで、察して欲しいと思った。ずるいかもしれないけれど。
目の回る忙しさがひと段落したとき、真希から「飲みに行こう」と誘われた。
「あ、水本さんたちもいるから、今日」
「え、聞いてない」
「今言ったよ」
無邪気な笑顔だけれど、これは完全に悪意がある。