強引な副社長の婚前指南～偽りの極甘同居が始まります～

何を焦っているのか、八雲さんはグイグイ私を追い払うと盛大なため息をついた。自分だってため息つくんじゃない……と思ったのは口に出さずにおく。

「いつもは自分の方から近づいてくるくせに、こういうときは離れろって。ホント、八雲さんって勝手ですよね」
　
でもなんか、八雲さんの貴重な顔が見られて嬉しい。八雲さんに何が起こったのかはわからないけれど、ちょっとだけ彼に近づけたみたいで意味もなく安心する。

「俺が勝手なのは今に始まったことじゃないからな。気にするな」

「気にするなって、それを八雲さんが言いますか？」
　
ついに我慢しきれなくなって、ふふっと笑いがこみ上げる。眉間にシワを寄せた八雲さんが、私の顔を両手で挟んだ。頬がきゅっと凹んで、変顔の出来上がり。

「ひゃくもはん、ひゃめへふだひゃいひょ～」
　
自分でも何を言っているのかわからないのに、八雲さんは「ヤダね」とその手を緩める気配がない。

「さっきの話の続きだけど」
　
さっきの話。どの話の続きなのか、いまいちわからなくて顔を挟まれたまま小首をかしげた。