俺様社長と<期間限定>婚前同居~極上御曹司から溺愛を頂戴しました~
 胸に抱きしめると、かすかに彼のかおりが残っていた。

「貴士さん……」

 ちいさくつぶやいて目を閉じる。

 耳の奥に、二年前に聞いた貴士さんの真剣な声がよみがえった。

『――俺は、本気で好きなんだ。なにがあっても、結婚したいと思っている』

 彼は姉の渚沙に、情熱的なプロポーズをしていた。

 私がどんなに貴士さんを好きでも、彼は私じゃなく姉を愛している。
 結婚したって、きっとつらい想いをするだけだ。

 それなのに、一緒に暮らし始めてから彼への想いは大きくなる一方だ。
 好きで好きで、泣きたくなる。

 貴士さんがここで暮らす期限は一ヶ月間。
 彼と暮らせるのはあと二週間ちょっとだ。
 その期間が終われば、今まで通りの穏やかな生活に戻れる。

 この古い日本家屋で子供たちに書道を教え、ひとり分の食事を作り、つつましく暮らす。
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